モニタリングだろ?俺達の仕事なら。

IMGP0057Accuphase(アキュフェーズ)との出逢いは芝浦のリハーサル・スタジオだった。
初の業務用プロ機器のデモ器を持ってリハ中訪ねて来てくれたのだ。その衝撃的なサウンドに完全にノックアウトされた私は以来アキュフェーズ一筋25年…。ライブでは最早アキュフェーズ無しでは私の音にならないと言ってもいい。

小さなショルダーバッグに現金10万円だけ持って19才頃大阪から出て来た時は当然何も持っていなかった。オーディオはおろか2年間は布団すら無かったから。粗大ゴミで見つけた古ぼけたラジカセが随一の音響機器。アナログ盤を聞きたいときはレコードをかけてる音楽喫茶等でお願いして聞かせてもらったりCDになってからは信濃町や六本木のレコーディング・スタジオに早目に行ってセッション開始前に聞いていたりした。

当時のスタジオモニターはラージはTADやウエストレイクでスモールは10Mが全盛。ソニー系のスタジオなのでパワーアンプはソニーの常設型の見た事無いような業務用だったけど。
そこで感じたのは同じCDなのにレコーディング・スタジオ等で聴くのと秋葉原のオーディオ試聴室で聴く音の違いだ。

IMGP0120そら再生機器から部屋の環境までまるで別なのだから音が違って当たり前なんだけど、そじゃなくて何だ?これは…………と。 大きな家電屋に在るオーディオ売り場のリスニングルームの音は心地良いのだ、ふくよかに空気をまとった音が空間を漂うように流れて来る。何を聴いても。スタジオ・モニターのように突き刺さるように音が飛んで来たり、リバーブのディケイ・タイムが解ったり、打点のズレ等のアラが見えてこない。ひたすら耳障りの良い音場を提供してくれる。

そらそうだな…良い音のするステレオ買いに来るもんな、家電屋にオーディオ買いに来る人は、普通。
つまりリスニング(聞く)とモニタリング(確認する)との違いだった訳だ。

「いったいどうやって弾いてんだっ!?」と必死に聞き耳立てたフレーズが流れるように滑らかになり、ドラムのトップ類はあらぬ方向から聞こえ、キックからビーターの音は消えボワンッとボディ・ソニックのような膨らんだ音になる。

こりゃいかん、何でも心地良い音に変えてしまう音の良いオーディオには注意せんと!

音楽を作る側と聞く側。ラーメン屋さんのカウンターの中と外の関係だ。

お客さんは好きな時に好きな物を好きなように食べればよい。酢を丼2回し入れようが豆板醤やラー油を入れようが、自分の好みの味で食べれば良いのだ。
しかし作る側はそうは行かない。研究・勉強のために食べ歩きで自分の好みに味を変えていたのでは意味が無い。「ダシの昆布は利尻か?」「塩は岩塩?」なんて具合に舌にその店の味を覚え込ませなくては成らない。

ウォークマンからCDウォークマン、MDプレイヤーからMP3へ…。
そして今やスマホ1台でカメラも時計も音楽もの時代。そら便利だよ、当然の進化だわ。

が、作る側がそれでいいのか?
ベースアンプでMP3プレイヤーの音をちまちま出すベーシスト諸君よ。バンドのボトムラインは床や空気を伝ってケツを振るわせ心を踊らせるもんだぜ。
iTunesのEQで好きなようにブーストしカナル式イヤホンで聴いてるエンジニア志望の若者よ。
どれだけオリジナル・サウンドを歪めて聴いてるのか自覚は有るのか?
P.A.からヘッドホンで聴いてたドカドカサウンドが出て来るとこを見ると自覚は、無いな。

良い音、好きな音で聴いてはいかんのだ。ミュージシャンやエンジニアは。
そもそも目的が違うのだよ、リスニングとモニタリングは。究極のお楽しみグッズであるスマホ等でばかり音楽を聴いていたら耳おかしくなるぞ。「そうか?」と思う奴はすでにおかしくなってる。

しっかり仕込みをするラーメン屋さんよりカップ麺が好きだと言うならそれはそれで良い。
問題は専門店とカップ麺の味の区別が出来ないってことだ。

アキュフェーズは業務用プロ機器でもオーディオ機器でも退屈な音と称されることがしばしば在る。
私はそこが気に入っている。良い音は良い音に聴こえ、酷い音は酷い音に聴こえる。

オーディオマニアやオタクのように実は存在しない幻のスーパーフラットを追い求めて、こりに凝った再生をしている訳ではない。IMGP7630

E-305とタンノイDTM-8をWE16AWG単線で繋いだだけ。
ついでじゃなくちゃんと聴こうぜ、音楽を。